介護職が知っていると役に立つ医療的知識
この資料は、介護職が安全に観察し、早めに共有し、医療職へつなぐための「現場で使える医療知識」をまとめたものです。
- 介護職が診断や治療方針を決めることはしません。
- いつもと違うを言語化し、記録し、報告することが最も重要です。
この資料の使い方
- 毎日の観察:バイタル・食事・排泄・睡眠・表情・動作を「平常値」と比較する
- 記録:事実(いつ、どこで、何が、どれくらい)を短く
- 報告:SBAR(状況・背景・評価・提案)で端的に
- 緊急度判断:迷ったら“上げる”が安全(特に呼吸・意識・胸痛・出血)
1. まず押さえる「危険サイン」チェック
このどれかがあれば、すぐに上長や看護師へ連絡。必要なら救急要請も検討。
- 意識:呼びかけに反応が鈍い、会話が成り立たない、急にぼんやり
- 呼吸:息苦しい、呼吸が速い、肩で息をしている、唇が紫っぽい
- 循環:冷汗、顔面蒼白、脈が極端に速い/遅い、胸が痛い
- 脳の症状:急な片麻痺、ろれつが回らない、急な強い頭痛
- 出血:止まらない出血、黒い便、血を吐いた
- 脱水:尿が極端に少ない、口が乾く、皮膚がカサカサ、ぐったり
- 感染疑い:発熱+ぐったり、震え、急な食欲低下、呼吸苦
救急要請(119)を迷わない目安
- 意識がない、または急におかしい
- 強い呼吸困難、SpO₂が明らかに低い(測定できる環境で)
- 強い胸痛、冷汗、顔面蒼白
- 片麻痺や失語など脳卒中が疑われる急変
- 大量出血、吐血、黒色便でぐったり
2. バイタルサインの基本(“平常”との比較が鍵)
- 発熱:一般に 37.5℃以上を目安
- 高齢者は「高熱が出ない」ことも多く、微熱+ぐったりでも要注意
- 速すぎる、遅すぎる、リズムが不規則、いつもより弱い
- めまい・ふらつき・冷汗が一緒なら緊急度が上がる
- ふだんの値からの急変が重要
- 立ち上がりでふらつく、失神しそう:脱水や薬の影響なども
- 介護現場で見落としやすいが、最重要の一つ
- 「速い」「浅い」「苦しそう」「会話が途切れる」は危険サイン
- 測定できる場合のみ。数値より“いつもと比べて低い”が大事
- 末梢が冷たい、爪が厚い、手が動くと誤差が出やすい
3. 介護現場で多い急変パターンと観察ポイント
- 食事・水分が減る、下痢、発熱、利尿薬、暖房環境で起こりやすい
- 観察:尿量減少、便秘、口渇、皮膚乾燥、立ちくらみ、ぼんやり
- 対応:水分摂取の工夫、環境調整、尿量・体重・食事量の記録
- せきが増える、痰が絡む、息が速い、食事中にむせる、声が濡れる
- 高齢者は「熱が出ない」こともある
- 観察:呼吸状態、食事中のむせ、SpO₂、眠気、食欲低下
- 体液が溜まり、肺に水が回ると息苦しくなる
- 観察:息切れ、夜間の呼吸苦、むくみ(足・顔)、体重増加
- 介護記録で役立つ:体重の推移、むくみ、睡眠時の呼吸
- Face:口角が下がる
- Arm:片腕が上がらない
- Speech:ろれつが回らない、言葉が出ない
- Time:発症時刻が重要
- 対応:発症時刻と症状をメモして、すぐに連絡・救急要請も
- 冷汗、手の震え、強い空腹感、ぼんやり、怒りっぽい
- 食事量低下、インスリン・内服、感染時に起こりやすい
- 対応:意識が保たれ、嚥下できるなら糖分摂取を検討(施設・指示に従う)。意識障害なら救急。
4. 痛みの観察(「どこが、どんな、いつから、どれくらい」)
- 部位:胸、腹、背中、関節、頭
- 性質:締め付ける、刺す、ズキズキ、重い
- 時間:いつから、波があるか、増悪・軽快因子
- 付随症状:吐き気、冷汗、息苦しさ、発熱
胸の痛みは、命に関わる病気が含まれます。
胸痛+冷汗+息苦しさがあれば緊急度が高いです。
5. 皮膚トラブルと褥瘡(じょくそう)
- 予防は「圧を減らす」「ずれを減らす」「湿潤と乾燥のバランス」
- 観察ポイント
- 発赤が消えるか(指で押して白くなるか)
- 皮膚のふやけ、びらん、浸出液、臭い
- 痛み(痛みが強い場合は感染や深部損傷の可能性)
- 記録:部位、サイズ、色、滲出、臭い、写真(運用ルールに従う)
6. 排泄の見方(便・尿は「体の通知表」)
- 便秘:硬い便、腹部膨満、食欲低下、せん妄の誘因にも
- 下痢:脱水、皮膚トラブル、感染の可能性
- 黒色便:消化管出血の可能性(緊急度高)
- 尿量・回数の変化が重要
- 濃い尿、尿量低下:脱水のサイン
- 排尿痛、頻尿:尿路感染の可能性
7. せん妄(急に“いつもと違う”)
- 特徴:注意が続かない、見当識が乱れる、興奮や逆に無気力
- 誘因:感染、脱水、便秘、疼痛、薬、環境変化、睡眠不足
- 対応:安全確保、環境調整、原因になりそうな変化を記録して共有
8. 服薬・疾患と「よくある副作用」
- 眠気、ふらつき:転倒リスク上昇
- 便秘:せん妄や食欲低下の誘因
- 食欲低下、吐き気
- 出血傾向(抗凝固薬など)
薬の変更(開始・中止・増量)後に「ふらつき」「傾眠」「食欲低下」が出たら、関連を疑って共有してください。
9. 連絡の型:SBAR(現場で一番役に立つ報告術)
- S(状況):何が起きたか
- B(背景):既往、普段の状態、直近の変化
- A(評価):自分が見た事実(バイタル、呼吸、意識、尿量など)
- R(提案):何をしてほしいか(指示がほしい、往診検討、救急搬送相談など)
例(短く)
- S:今朝から息苦しさが増えています
- B:心不全の既往があり、普段は歩行可能です
- A:呼吸が速く会話が途切れます。足のむくみが増え、体重が2日で1.5kg増えました
- R:至急評価をお願いしたいです
10. 研修でよくあるQ&A
- Q:バイタルが正常でも安心ですか?
- A:安心材料にはなりますが、「いつもと違う」があれば要注意です。
- Q:どのタイミングで看護師や医師に上げるべきですか?
- A:迷ったら早めに共有してください。軽症でも早期対応で重症化を防げます。
最後に(現場の強み)
介護職は、利用者さんのふだんを一番知っています。
その視点で気づいた「違和感」を、具体的な言葉と記録にして共有することが、医療安全と生活の質の両方を守ります。