2026年度の診療報酬改定における訪問看護への影響
2026年6月施行の診療報酬改定は、訪問看護の「量の拡充」と「質の向上」を両輪とする大きな転換点です。本コラムでは、管理者として押さえておくべきポイントを整理しました。
はじめに — 30年ぶりの改定率が意味するもの
2026年度診療報酬改定は、本体部分+3.09%という1996年度以来30年ぶりの水準での引き上げとなりました。背景にあるのは、人件費・物価の高騰と、在宅医療ニーズの急拡大です。
訪問看護に関しては、「適正化」と「質の評価」が明確に打ち出されています。つまり、「量」だけでなく「どのような看護を、どのような体制で提供しているか」が、これまで以上に問われる時代に入ったと言えます。
1. 訪問看護管理療養費の見直し — 初日は増額、2日目以降は細分化
月の初日:全区分で引き上げ
物価・人件費高騰を踏まえ、月の初日の訪問看護管理療養費は全区分で増額されました。
| 区分 | 改定後 | 改定前 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 機能強化型1 | 13,760円 | 13,230円 | +530円 |
| 機能強化型2 | 10,460円 | 10,030円 | +430円 |
| 機能強化型3 | 9,030円 | 8,700円 | +330円 |
| 機能強化型4(新設) | 9,030円 | — | 新設 |
| 上記以外 | 7,710円 | 7,670円 | +40円 |
月の2日目以降:単一建物居住者数×訪問日数で細分化
これまで「管理療養費1(3,000円)」「管理療養費2(2,500円)」の2区分だったものが、単一建物居住者数と月あたり訪問日数によって細かく分かれます。
| 単一建物居住者数 | 訪問日数 | 金額 |
|---|---|---|
| 20人未満 | — | 3,010円 |
| 20人以上49人以下 | 15日以下 | 2,510円 |
| 20人以上49人以下 | 16〜24日 | 2,310円 |
| 20人以上49人以下 | 25日以上 | 2,210円 |
| 50人以上 | 15日以下 | 2,410円 |
| 50人以上 | 16〜24日 | 2,210円 |
| 50人以上 | 25日以上 | 2,010円 |
管理者へのポイント: 施設基準の届出が不要になった一方で、大人数への頻回訪問ほど単価が下がる構造です。自ステーションの利用者構成と訪問パターンを改めてシミュレーションしておきましょう。
機能強化型4の新設 — 精神科訪問看護への新たな評価
精神科訪問看護において、支援ニーズの高い利用者を受け入れ、24時間対応・地域連携を行うステーションを評価する機能強化型4が新設されました。主な施設基準は以下のとおりです。
- 常勤の看護職員4名以上(うち6割以上が看護職員)
- 24時間対応体制加算の届出
- 難病等重症者および精神科訪問看護の実績
- 退院時共同指導・医療機関連携の実績
- 地域への研修・相談対応の実績
2. 包括型訪問看護療養費の新設 — 高齢者住まい×重症者への新しい枠組み
今回の改定の目玉の一つが、包括型訪問看護療養費です。
対象
高齢者住まい等に併設・隣接する訪問看護ステーションが、そこに居住する重症者(別表7・別表8該当者、特別訪問看護指示書の対象者)に対して、24時間体制で計画的・随時の頻回な訪問看護を行った場合に算定できます。
主な算定ルール
- 日中・夜間帯(18時〜翌8時)にそれぞれ最低1回ずつの訪問看護が必要
- 1日60分以上の場合は3回以上の訪問が必要
- 1日1回以上は看護職員(准看護師除く)による訪問を含める
- 訪問看護計画書・記録書は電子的方法で記録
療養費の水準(1日あたり・単一建物居住者20人未満の場合)
| 訪問看護時間 | 金額 |
|---|---|
| 30分以上60分未満 | 7,010円 |
| 60分以上90分未満 | 11,010円 |
| 90分以上 | 14,010円 |
| 90分以上(緊急即応体制+平均120分以上) | 15,510円 |
注意: 包括型を算定する場合、同一日に訪問看護基本療養費(I・IIのハを除く)、精神科訪問看護基本療養費、訪問看護管理療養費、24時間対応体制加算は別途算定できません。高齢者住まいに隣接していないステーションは対象外です。
3. 同一建物居住者への訪問看護 — 評価の細分化と適正化
訪問看護基本療養費(II)の見直し
これまで「同一日2人」と「同一日3人以上」の2段階だった区分が、5段階に細分化されました。10人以上の区分では月あたりの訪問日数による区分も追加されています。
同一日に同一建物居住者の訪問看護を行う人数が多いほど効率が高まる(移動時間が短い)ことを踏まえた見直しです。
適切な訪問時間の明確化
新たに、訪問看護基本療養費(II)等を算定する場合の訪問時間について、30分以上を標準とし、20分を下回る場合は算定不可とする規定が設けられました。
4. 不適切な訪問看護への是正 — 「漫然かつ画一的」は認められない
今回の改定では、運営基準レベルでの規制強化も行われています。
明確化された禁止事項
- 画一的な訪問計画の禁止: 利用者の心身の状況を踏まえず、一律に訪問日数・回数・時間・人数を定めることは認められない
- 標準時間を下回る短時間訪問の乱発禁止: やむを得ない事情なく、同一日に複数利用者に頻繁に短時間訪問を繰り返す場合は「指定訪問看護を実施した」とは認められない
- 経済的誘引の禁止: 利用者への値引きや、紹介対価としての金品提供が明確に禁じられた
- 特定の主治医・事業者への誘導禁止
現場への影響: 訪問時間は「実際の開始時刻・終了時刻」を記録することが明確化されました。記録の正確性と訪問計画の個別性が、これまで以上に重要になります。
5. ICT活用の推進 — 訪問看護医療情報連携加算(新設・月1回1,000円)
連携する医療機関の医師や管理栄養士、ケアマネジャーなどがICTで記録した診療情報等を活用し、計画的な管理を行う訪問看護ステーションに対する新たな加算です。
施設基準のポイント
- 利用者の診療情報等をICTで常時確認できる体制を有すること
- 関係機関と平時からの連携体制を構築していること
- 情報連携体制をウェブサイト等で掲示すること(2026年9月30日まで経過措置あり)
6. その他の注目すべき改定事項
訪問看護物価対応料の新設
物価上昇に段階的に対応するための加算が新設されました。
- 月の初日:60円 / 月の2日目以降:20円 / 包括型算定時:20円
- 令和9年6月以降はそれぞれ2倍の金額に引き上げ
ベースアップ評価料の拡充
訪問看護ベースアップ評価料(I)が780円→1,050円に引き上げられ、(II)も全区分で増額。賃上げ対応への原資が拡充されました。
乳幼児加算の引き上げ
超重症児等以外の乳幼児加算が1,300円→1,400円に引き上げ。
特別地域訪問看護加算の要件拡大
従来の「移動1時間以上」に加え、「移動30分以上かつ移動+訪問の合計2.5時間以上」でも算定可能に。
まとめ — 管理者として今すぐ取り組むべきこと
今回の改定は、「量から質へ」という訪問看護の大きな方向転換を示しています。2026年6月の施行(3月5日告示予定)に向けて、以下の点を優先的に確認・対応していくことをお勧めします。
今回の改定は、日々の訪問看護を丁寧に、個別性をもって提供しているステーションにとっては追い風となる改定です。一方で、画一的な運営や不透明な慣行を続けるステーションにとっては厳しい内容も含まれています。
私たち管理者がこの改定の意図を正しく理解し、利用者にとって「質の高い訪問看護」を提供し続けることが、地域の在宅療養を支える基盤を強くすることにつながると考えます。## 7. 今回の改定による当ステーション(やさしい手わかみや訪問看護ステーション)への影響
当ステーションは高齢者住まいに併設・隣接する形態ではなく、地域の居宅で生活する利用者への個別訪問が中心です。そのため、包括型訪問看護療養費の新設による直接的な影響はありませんが、以下の点は経営・運営の両面から注視すべきと考えています。
プラスに働く改定
- 訪問看護管理療養費(月の初日)の引き上げ: 機能強化型の届出がない場合でも7,670円→7,710円に増額。わずかではありますが、全利用者に対して確実に反映される増収要素です
- 物価対応料の新設: 月の初日60円、2日目以降20円の加算は、物価高騰が続く中で運営コストの一部を補填する原資になります。令和9年6月以降は倍額となる点も見逃せません
- ベースアップ評価料の拡充: 評価料(I)が780円→1,050円に増額。スタッフの処遇改善に直接つなげられる原資が拡大しました
- 特別地域訪問看護加算の要件拡大: 当ステーションの訪問エリアは岡谷市・下諏訪町・諏訪市と広域にわたります。移動30分以上かつ合計2.5時間以上の要件に該当するケースがあれば、新たに加算を算定できる可能性があります
注意すべき改定
- 訪問時間の記録厳格化: 訪問開始・終了時刻の正確な記録が求められます。現在の記録運用を再確認し、スタッフ全員に周知する必要があります
- 訪問計画の個別性: 利用者の状況を踏まえない画一的な訪問は明確に否定されました。当ステーションではすでに個別ケアを重視していますが、計画書の記載内容や見直しプロセスを改めて点検する良い機会です
- ICT連携への対応: 訪問看護医療情報連携加算(月1回1,000円)は、連携する医療機関とICTで診療情報を共有する体制が前提です。今後、諏訪日赤病院や岡谷市民病院等との情報連携基盤を整えることで、加算取得と看護の質向上を同時に実現できる可能性があります
今後に向けて
当ステーションとしては、今回の改定を「質で選ばれるステーション」への転換を加速する契機と捉えています。日々の訪問看護の丁寧な実践、記録の正確性、多職種連携の深化は、改定対応にとどまらず、利用者やご家族からの信頼、そして地域の医療機関やケアマネジャーからの紹介につながる基盤です。
諏訪地域の在宅療養を支える一員として、今回の改定の趣旨を現場に浸透させながら、質の高い訪問看護の提供に引き続き取り組んでまいります。
本コラムは2026年2月13日の中医協答申および関連資料に基づいて作成しています。詳細は3月5日予定の告示・解釈通知をご確認ください。