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認知症ケア実践【中級編】|NVCと疾患別アセスメント
中級編のテーマは「背景を読み解き、チームでケアを変える」です。 初級編の超傾聴を、NVC・疾患別理解・統合的アセスメント・意思決定支援へ深めます。
初級編から中級編へ
中級編のゴール
- NVCの視点で、評価や決めつけを観察可能な事実へ戻せる
- 疾患ごとの特徴を理解しつつ、診断名だけで本人を見ない
- 身体・認知機能・感情・生活歴・環境・関係を統合できる
- 意思決定支援と仮説検証を、チームで実践できる
1|NVCで本人の世界を理解する
NVC(非暴力コミュニケーション)では、「どちらが正しいか」ではなく、何が起き、どんな感情と大切にしたいことがあるかから考えます。
4つの視点
- 観察|評価を混ぜずに、何が起きたか
- 「拒否が強い」ではなく、「職員が腕に触れると、腕を引き『嫌』と2回話した」。
- 感情|本人は何を感じている可能性があるか
- 不安、怖さ、戸惑い、恥ずかしさ、寂しさ、いら立ち、疲れなど。
- ニーズ|本人が大切にしているものは何か
- 安心、尊重、選択、自分のペース、見通し、役割、つながり、休息、安全など。
- リクエスト|今ここで試せる具体的な提案は何か
- 「今、顔だけ拭きますか。それとも10分後にしますか」のように、断る自由を残す。
感情とニーズは、本人に代わって断定しません。「そうかもしれない」という仮説を持ち、本人の言葉や表情、身体の反応で確かめます。
NVCを誘導にしない
- 「怖いのですね」と決めつけず、「何か心配ですか」と尋ねる
- 本人が言葉で答えにくい場合は、近づく・離れる、緊張が緩むなどの反応を見る
- リクエストには「いいえ」と言える余地を残す
- NVCを、本人を落ち着かせるためのテクニックにしない
2|支援者自身への共感
本人だけでなく、支援者にも感情とニーズがあります。
「私は焦っている。時間の見通しが欲しい。事故を防ぎ、安全に支援したい。」
自分の焦りを認識しないまま関わると、声の強さ、距離、説明の多さとして本人へ伝わります。
関わる前のセルフチェック
- 私は今、何を感じているか
- 私が守りたいものは何か
- 業務上の都合を、本人の問題に置き換えていないか
- 本人と私の両方のニーズを大切にする方法はあるか
3|主な原因疾患の特徴とケアの視点
疾患の特徴は、本人を分類するためではなく、見落としを減らすための補助線です。個人差が大きく、複数の病態が重なることもあります。症状だけで診断はできません。
アルツハイマー型認知症
主な特徴
- 新しい出来事を覚えることの難しさが目立ちやすい
- 時間・場所の見当識、言葉を思い出す力が徐々に低下する場合がある
- 本人にとっては「聞いていない」「初めて」の体験になっていることがある
ケアの視点
- 記憶を試さず、間違いを繰り返し指摘しない
- 予定や手順を見える形にして、環境を記憶の補助として使う
- 繰り返しにも初回と同じ敬意で応じる
- 内容を忘れても感情が残る可能性を意識する
血管性認知症
主な特徴
- 脳梗塞・脳出血など、障害された部位によって症状が異なる
- 段階的に変化したり、できることと難しいことの差が目立ったりする場合がある
- 麻痺、構音障害、嚥下障害、感情の変化などを伴うことがある
ケアの視点
- 能力を一括りにせず、機能と場面ごとに評価する
- 疲労や時間帯を考慮し、休息とペースを調整する
- 残存能力を生かし、看護・医療・リハビリ職と連携する
- 急な麻痺、顔のゆがみ、言葉の出にくさ、意識変化は迅速に医療へつなぐ
レビー小体型認知症
主な特徴
- 人や動物など、具体的な幻視がみられることがある
- 注意や覚醒、認知機能の状態が大きく変動することがある
- 動作の遅さ、筋肉のこわばり、小刻み歩行などのパーキンソン症状
- 睡眠中の大声や動き、立ちくらみ、便秘などを伴う場合がある
ケアの視点
- 幻視を頭ごなしに否定せず、本人の恐怖や安心のニーズを受け取る
- 照明、影、柄、反射などの環境を確認する
- 状態の波を「やる気」と評価せず、調子のよい時間帯に活動を合わせる
- 転倒、誤嚥、起立性低血圧、薬剤への反応を医療職と共有する
レビー小体型認知症では、薬に強い過敏性を示す場合があります。介護職の判断で薬を調整せず、眠気、動作、幻視、興奮などの変化を具体的に記録して医師・看護職・薬剤師へ共有します。
前頭側頭型認知症・前頭側頭葉変性症
主な特徴
- 比較的早い段階から、行動、社会性、意欲、言語に変化が現れることがある
- 同じ時間・道順・食べ物などを繰り返す常同行動がみられる場合がある
- 抑制が利きにくい、言葉の意味や発語が難しくなるタイプがある
- 初期には記憶の低下が目立たないこともある
ケアの視点
- 「性格」「反省不足」「わがまま」と道徳的に評価しない
- 本人が保ちやすいルーティンを生かし、急な予定変更を減らす
- 長い説得より、分かりやすい環境と短い合図を使う
- 写真、指差し、実物、身ぶりなど、言葉以外の方法を取り入れる
- 社会的トラブルを予防しながら、過度な制限や羞恥を避ける
嗜銀顆粒性認知症(嗜銀顆粒病)
読み方:しぎんかりゅうせいにんちしょう/しぎんかりゅうびょう
主な特徴
- 主に高齢期にみられる、異常なタウたんぱく質が関係する病気
- 記憶障害から始まることが多く、ゆっくり進行する場合がある
- 頑固さ、いら立ち、妄想、性格や行動の変化などが報告されている
- アルツハイマー型認知症など、ほかの病態を併せ持つ場合があり、生前の診断が難しいことがある
ケアの視点
- 頑固さやいら立ちを「元々の性格」「わがまま」と決めつけない
- 本人の慣れた生活リズムや手順を尊重し、急な変更を減らす
- 妄想や訴えの内容を正面から否定する前に、不安、安心、見通しなどのニーズを聴く
- 記憶の難しさには、予定や置き場所を見える形にして支える
- 症状だけで疾患を決めず、経過と変化を記録して医師などの専門職と共有する
「嗜銀」は、脳の組織を銀染色したときに見える特徴に由来する名称です。介護職が病名を判断するのではなく、高齢期の記憶障害や性格・行動の変化を一つの病態だけで説明しないための知識として活用します。
混合型・その他の原因
高齢になるほど、アルツハイマー病と脳血管障害など複数の病態が重なる場合があります。また、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能の異常、薬剤、うつ、感染、脱水、せん妄など、治療や調整が必要な状態が認知症のように見えることもあります。
「いつもと違う」「急に変わった」は重要な情報です。 診断名だけで説明せず、医療へつなぎます。
4|統合的なアセスメント
行動を一つの原因だけで説明せず、複数の層を重ねて見ます。
| 見る層 | 確認する問い |
|---|---|
| 疾患・認知機能 | どの機能が、どの場面で難しいか。疾患の特徴と合うか。 |
| 身体 | 痛み、感染、排泄、脱水、睡眠、薬、視聴覚、疲労は影響していないか。 |
| 感情・ニーズ | 何を感じ、何を守り、何を満たそうとしている可能性があるか。 |
| 生活歴・価値観 | 仕事、役割、習慣、文化、家族関係とどうつながるか。 |
| 環境・関係 | 音、光、動線、時間、職員の声や距離が影響していないか。 |
| 本人の力 | 何なら分かるか、選べるか、続けられるか。 |
5|BPSDを仮説検証する
行動・心理症状(BPSD)を「困った行動」で終わらせず、本人からのメッセージとして読み解きます。
- 観察する
- 評価語ではなく、いつ・どこで・何が起きたかを記録する
- 本人の声を聴く
- 言葉、表情、身体の反応を可能な限りそのまま残す
- 複数の仮説を立てる
- 疾患、身体、感情、ニーズ、生活歴、環境、関係から考える
- 一つだけ変えて試す
- 声かけ、時間、場所、手順、役割、環境を小さく変える
- 本人の反応で評価する
- 介助できたかだけでなく、安心、表情、緊張、主体性を見る
- 仮説を更新する
- うまくいかなければ本人のせいにせず、見立てを修正する
一度に多くのことを変えると、何が本人に合ったのか分かりません。本当に確かめたい仮説を一つに絞り、小さく試します。
6|意思決定支援
認知症があっても、本人には意思があります。支援者が代わりに決める前に、意思をつくり、表し、実現するための環境を整えます。
- 意思形成を支える
- 分かりやすい言葉、写真、実物、体験で情報を伝える
- 意思表明を支える
- 慣れた場所・人・時間帯を選び、表情や行動も意思として受け取る
- 意思実現を支える
- 本人の望みと安全を両立する方法を考える
- 繰り返し確かめる
- 意思は変わり得る。重要なことは一度の返答だけで決めない
意思を守るための確認
- 本人が断る余地はあるか
- 選択肢が多すぎないか
- 支援者の期待する答えへ誘導していないか
- 本人が力を発揮しやすい環境か
7|事例:幻視へのNVC的な関わり
場面
夕方、本人が廊下の先を指して「子どもがいる。危ない」と繰り返し、歩き出そうとしている。
観察
- 17時頃、暗くなった廊下を指して「子どもがいる」と3回話した
- 職員が「誰もいません」と言うと、声が大きくなり、立ち上がった
感情・ニーズの仮説
- 心配や怖さがあるかもしれない
- 子どもの安全を確認したい、自分も安心したいのかもしれない
疾患・身体・環境の仮説
- レビー小体型認知症の幻視の可能性
- 夕方の疲労や覚醒状態
- 廊下の影、反射、照明、視力の影響
共感的なリクエスト
- 「子どもが危ないように見えて、心配なのですね」
- 「一緒に近くまで確認してみますか」
評価
- 幻視が消えたかだけでなく、恐怖、緊張、歩行の安全、本人との信頼がどう変わったかを見る
8|チームでケアを更新する
ケアの違いを「優しい職員/厳しい職員」という人物評価にしません。事実と仮説を共有し、次の小さな実践を決めます。
1分共有の型
- 事実: いつ、どこで、何が起きたか
- 本人の声: 言葉、表情、身体の反応
- 仮説: 背景に何がありそうか
- 実践: 何を一つ変えたか
- 結果: 本人にどのような変化があったか
- 次: 次に何を一つ確かめるか
NVCを使ったチーム対話
- 観察: 評価を入れず、場面を共有する
- 感情: 本人と職員にどんな気持ちがあるか考える
- ニーズ: 本人の尊厳・安心と、職員の安全・協働・見通しを確認する
- リクエスト: 次の勤務で、全員が試すことを一つ決める
本人のニーズと職員のニーズは、どちらかを犠牲にする二者択一ではありません。両方を大切にできる第三の方法を、小さく試して探します。
9|中級編の振り返り
- 評価語を、観察できる事実に置き換えたか
- 感情とニーズを断定せず、本人の反応で確かめたか
- 疾患の特徴・身体状態・生活歴・環境・関係を統合したか
- 本人が断る、選ぶ、待つ余地を残したか
- 支援者自身の焦りとニーズにも気づいたか
- 一度に全部を変えず、検証する仮説を一つに絞ったか
- 結果を本人の安心と望む生活から評価したか
最後に
中級者に求められるのは、症状ごとの正解を多く知ることだけではありません。
目の前の行動を、疾患・身体・感情・ニーズ・生活・環境・関係の重なりとして捉え、本人と共に確かめ続ける力です。
分からなさを急いで埋めず、観察し、共感し、小さく提案し、反応から学ぶ。その循環が、超傾聴を専門的な実践へ育てます。
参考資料
疾患別の記載は代表的な傾向です。個別の診断・治療・服薬調整は、医師などの専門職が行います。